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第1回 言語を支える~『高度バイリンガル』を目指して~

■「高度バイリンガル」とは何か

啓明学園では生徒ひとりひとりの「言語」を支えることが、その児童・生徒の「在り方」を支えることであるという考え方に立ち、海外で学習経験のある生徒に対して高校3年の卒業時には「高度バイリンガル」の技術を持っているようにということを目標としています。みなさんにはあまり馴染みのない「高度バイリンガル」という言葉は啓明学園で使い始めた言葉で「2つの別の文化の中で、2つの言語を使いこなし、それぞれの社会で一般社会人として仕事のできるレベルの言語能力」のことを指しています。では、この技術は海外で長く生活をすることで自然についてくるものなのでしょうか。  

■  日常言語能力(BICS)Basic Interpersonal Communication Skills と認知学習能力(CALP)Cognitive Academic Language Proficiency

一般的に「バイリンガル」という言葉は2つの言葉が流暢に話しができることを指していることが多いわけですが、実際には「バイリンガル」なる状態には段階があることが分かっています。言語学者のJim Cumminsによると、一つ目は「日常言語能力(BICS)を習得する」という段階です。これは、日常的な生活のコミュニケーションに必要な言語能力を得ることで1年から2年の短い期間で習得することができます。第2段階目は「認知学習言語能力(CALP)を習得する」ことで、これは年齢相当の学習に必要な言語能力のことをさし、習得には5年から7年にも渡るかなりの時間がかかるといわれています。日常会話が流暢に話すことができ、現地の子供たちと同じ授業を受けても大丈夫なように見えても実際には年齢相当の学習内容が身につくレベルの言語能力がつくまでにはかなりの時間と努力が必要であり、また認知学習言語能力(CALP)を身に付けない限り本当の意味での「バイリンガル」にはなれないということがわかります。つまり啓明学園でいうところの「高度バイリンガル」を目指していくためには、2段階目の認知学習言語能力(CALP)を2つ(もしくはもっと多くの言語で)しっかりと身に付け、また、ひとりひとりの成長にあわせてその力を年齢相当に伸ばしていくということが重要になってくるわけです。啓明学園では、この事実をベースにして「言語を支える」ことに力をいれています。

■言葉は別々に存在しない

ここでもう一つ興味深いのは、言語のベースは1つであるということです。以前アメリカのESL(English as Second Language)の教授に「人はバイリンガルで生まれてはこない」と言われて「本当だろうか」と初めは疑った記憶がありますが、私たちが言語を習得していくにあったて2つ以上の言葉を同時に学ぶというケースはほとんどなく、ある言語のベースをまず作り上げ、その上に2つ目の言語がのっていくということなのです。つまり、一つの言語でしっかり認知学習言語能力(CALP)を身に付けると他の言語はそのレベルに自然に持ち上がっていくという考え方です。このことを考えると、特に年少者の場合はたくさんの言語を浅く広く与えるよりは一つの言語のベースをしっかり築くこと、その言語での認知学習能力(CALP)習得に気を配らなければならないことを忘れてはいけないということになります。啓明学園ではこのことを踏まえて、一人一人の児童・生徒の「一番得意な言語」を大切に支え、伸ばすことに力をいれています。このことこそが日本語の習得や他言語の習得に役立っていくからです。  

■日本語を支える

今までに述べたことをベースに啓明学園ではいろいろな取り組みをしていますが、まずは日本語について紹介していきましょう。海外で生活をする中で、日本に生活していれば自然に見聞きしているはずの「年齢相当の日本語」に接する機会が大幅に限られてくることが考えられます。その中でよく起きてくるのは「知っている日本語の中でコミュニケーションをすませてしまう」という言語に対する態度です。例えば物事に「びっくりした」ことを伝えるのにこの一つの言葉を知っていれば事実を伝えることはできるのですが、実際に文章を読み書きする場合には「驚いた」という表現や、もう少し年齢が高くなれば「驚愕した」「驚嘆した」といった表現が必要になってきます。ところが、それらの言葉に出会う機会がないと、いつまで経っても驚く事柄に対して「びっくりしている」わけです。こういった「言葉を成長させる」ための方法としての啓明学園国際学級日本語・国語の時間での取り組みの一例を紹介しましょう。エッセイや作文を書く際、まずその課題に対する生徒のアイディアを図式化(ウエブ化)します。その後、生徒から口頭で内容を聞き取り、必要な言葉や表現を足していきます。この作業の中で、自分の考えを表現する際に「今まで使っていた表現」とその考えを表す別の「成長した形」に気づき、自分の書く文章の中で自分の言葉の一部になっていくわけです。この後文章にしていくわけですが、ここで作業は終りません。一度書いた文章に何度も添削をくり返し、最後に清書した完成作品を作り上げていきます。言葉を成長させるためには少人数の中で一人一人と向きあう丁寧な学習がかかせません。  

■英語を伸ばす

日本に帰国すると当然英語を話す、聞く、読む機会が大幅に減ってしまいます。意識的に英語を使う機会を持たなければ英語力は当然落ちてしまいます。啓明学園では、英語圏現地校でLanguage Artsの教科書として使われているテキストを使い徹底的に読み、書き、発表することをくり返していきます。「寝る時間が足りない」と言いながら、毎日の課題に追われる生徒たちの姿をみていると現地校の高校生の姿をみているような錯覚を覚えます。厳しいようではありますが、これくらいの努力をしないと日常生活で英語を使わない場所で「年齢相当の英語」を身に付けていくことはできないということは生徒達も分かっていると思います。確実に自分の英語力が上がっていることを確認するために、毎年11月にITP-TOFELを全員に課して自分の成長を確認します。ほぼ100%の生徒が確実にスコアを上げていきます。昨年度の卒業生を例に取ると国際上級英語クラスでは、中学1年時にibtベースでクラス平均70点だった点数が高校2年時には88点に上がっています。また、土曜日には希望者には英語学習するのでなく英語学習をする集中講座「KIS (Keimei Gakuen International School))を開講しています。海外の補習校の英語バージョンに近い形で英語を使って考える機会を増やしています。  

■他言語を伸ばす

啓明学園では、英語以外の言語で学習を進めてきた人も数多く在学しています。「得意な言語」を支えるために「中国語」「コリア語」「ドイツ語」「フランス語」「スペイン語」のクラスを普段の時間割の中に用意しています。高校卒業時までにそれぞれの言語の検定1級をめざしています。  

■終わりに

啓明学園の言語教育は「言語」を支えることがその児童・生徒の「在り方・存在」を支えることであるということに基づいています。「高度バイリンガル」を実現するためには、いろいろな手法で丁寧に「言葉を育てていく」ことが大切です。これは海外生活を経験した児童・生徒にだけあてはまるものではありません。日本で生まれ育った児童・生徒にも同じように「言葉を育てる」ことを大切に教育活動を行っています。   >>>第2回 英語を育てる