対談

このページは、地域の『幼稚園協会誌2014年3月号』に掲載した対談記事の詳細版です。『幼稚園協会誌2014年3月号』には、誌面の都合上対談の一部しか掲載できませんでした。ここで、全文を掲載いたします。   <テーマ> ①小学校の先生から見た、幼稚園のうちに身につけてほしいこと。 ②啓明学園初等学校で行っている森遊びとは? ************************************************************ 幼稚園の卒園が近づいてくると、「小学校に入ったときに困らないように、ひらがなを覚え、きちんと座れるようにし、いろいろ身につけておかないと…」と考えてしまうことありませんか? そこで、小学校の先生はどう考えていらっしゃるのか、昭島市にある私立啓明学園初等学校の先生方にお伺いしました。 また、学園の敷地内の森を利用した「森遊び」の時間についてもお話しいただきました。   ■親・友達との関係を豊かにする 井手和佳子(2年生担任) みなさんいろいろと心配されるようですね。でも、「何かの『技術』を身につける」ことは、小学校に入ってからでも遅くはありません。 小学校に入学したら、まずは、鉛筆の持ち方から始め、ひらがなも「あ」から、算数も「1」から始めます。一学期中は10までの数を丁寧に学習し、数の概念をしっかりつけていきますから。 結城しのぶ(1年生担任) ただ、「自分のことを自分でやろうとする」ことは身につけてほしいと思います。脱いだ靴は揃える、使ったはさみは元に戻す、お弁当から落ちたトマトは自分で拾う、などシンプルなことからでいいと思います。自分のことなのに他人任せばかりだと、小学校に入った時に苦労するかもしれませんね。 井手 私は「ぬくもりのある遊びを親子で楽しむ」ことをお勧めします。おしゃべり、手遊び、うた、絵本の読み聞かせなど、親子で一緒に何かをする時間を10分でも20分でもぜひ大切にしてほしいです。「親から愛されている」と感じることは子供の成長に欠かせません。 結城 そうですね。親だけでなくいろいろな友達と遊んで、けんかをしたり、譲ったりすることもしてきてほしいです。このような経験が少ない子は小学校に入った時に言葉の使い方や相手への気遣いなどが十分でなかったりします。 井手 「親との関係を豊かにする」「友達との関係を豊かにする」この二つがポイントですね。そうすれば、小学校に入ってからの「いろいろな人との関係」がうまく築けるのではないでしょうか。   ■夢中になって遊ぶことは、学ぶ力の基礎になる 結城 そしてぜひ、「夢中になって遊ぶ」ことをしてほしいです。遊びに夢中になると、「これはどうなっているのかな」「どうすればいいかな」と考えだします。それは、小学校に入った時に必要になってくる「学ぶ力」の基礎になると思います。 井手 私たちの学校で取り入れている「森遊び」もそのような視点に立っていますね。 結城 敷地内の森で自由に思いっきり遊べる時間に、みんな夢中! そんな「言いたいことがいっぱいある経験」をすることが子どもたちの言葉・感性・学ぶ力を育てることになっていると思います。   <森遊び:高い木から吊るしたブランコ>   ■森あそびは、いつもとちがう顔が出てくる 井手 ところで、1月の森あそび、1年生はどうでしたか。 結城 「今日はどの木を切るの?」1月の森あそびで、こんな質問が出ました。11月の森あそびで、大きな枯れている木を切ったんです。みんな初めて、のこぎりをにぎりました。手が痛くなった!なんかいい香りがした!と、感じたことは様々。 井手 私も木を切ったことなんてないですよ。 結城 のこぎりが終わると、木が一気に倒れないように、反対側でロープを引きます。「うんとこしょ。どっこいしょ。まだまだ木はたおれません」と、学習が終わったばかりの「おおきなかぶ」の大合唱になりました。 井手 みんなの顔が目に浮かびます。 結城 大人も参加して、ついに「ぎぎぎぎぎい」と大きな音を立てて、木が倒れました。ピンと張ったロープがゆるんで、ゆっくりと倒れていく木。大人も興奮しました。 井手 一生残る体験ですね。 結城 道のない斜面を、自分で足場を見つけて、最後は、おしりで坂をすべる女の子がいました。その子は、「いつもとても慎重でなかなか大胆に遊んでくれない」と保護者の方がなげいている子でした。その子はその後も、おしりを真っ黒にして土手滑りを楽しんでいました。 井手 よかったですね。 結城 その土手がとても急で、なかなかすべれない子どもが何人かいました。「大丈夫。やってごらん」と頑張らせたりはしません。ただ、その子の「時」が来るのを見守っていました。 井手 大人は待てなくて、つい教えたくなります。 結城 とうとう最後まで、滑れない子もいました。「できる子がいて、できない子がいるのは、当たり前。今回はできなかった。 それでいい」森あそびのリーダーは、子どもたちにそう語っていました。 井手 教室の学びでは、「まちがいいから学ぶこと」はあっても、「できなくてよいこと」ははなかなかありませんけど、自然の中では、「できないこと」があって当然なんですね。 結城 ドキドキしている子に、「こうすれば滑れるよ。がんばれ!」 と言うのを、ぐっとこらえました。これが子ども自身の伸びようとするのをじゃまする、「よけいな一言」なのかなと思って・・・   ■子どもがやりたくなる「とき」を待つ 井手 そうね。よかれと思ってやってあげていることが、本当にその子のためになっているのか。親であれば、なおさら、この子のためにいろいろしてあげたい、と思うから難しいところだと思いますね。 結城 習いごとをしている人が多いので、何かさせたほうがいいのか、と保護者の方から相談を受けることがあります。みなさん、お子さんのためを思って、とても真剣に考えていらっしゃるのですよね。 井手 最近は、情報や選択肢が多いし、早めにという誘いもあって、お母さんたちは真剣に考えれば考えるほど悩んでしまうのでしょうね。 結城 そうなんです。将来の選択肢を広げてあげたいし、出遅れちゃいけないからって、あれもこれもと思うと迷ってしまうのは分かる気がします。 井手 でも、大人が思う「今のうちにさせておきたいこと」と子どもの「今しかできないこと」はずれていることが結構あるのかもしれない。森あそびでもそうだったけれど、子どもがやってみよう!と思う時を、待つことが大切なのかもしれませんね。   ■自分から、何かに向かっていく経験は心深くに残る 井手 2年生の1月の森遊びも、もみじ谷の下でたっぷり遊びました。Aちゃんは落ち葉の山に足がずぼっと入ったのが楽しくて、ずっと遊んでいたし、Bくんはがけ登り。登ってはズルズル落ちて、また登るのも嬉しそうだった。前は全員がガケすべりだったけど、今回は一人ひとりが冒険心をもって動いていました。 結城 集団の動きはありましたか。 井手 かなり太い丸太があって、それをシーソーに見立てていました。まず、バランスがとれるようにみんなで丸太の位置を決めて、乗る場所や人数を変えていました。結構頭も使っていたけれど、顔がいきいきしていましたよ。 結城 いいですね。さすが、2年生。 井手 それから、一番人気は、木の枝にロープを引っかけて作った、巨大ブランコ!座るところは小さいハンモックになっていて、安定性がいいんです。5メートルぐらいの高さの枝にかけたから、子どもは10メートルぐらいはスイングしたんじゃない? 結城 大人もやってみたーい。 井手 私もやりたかったですね。「楽しくて、口を開けてるしかなかった」と言っていた子どもがいて、その子は本当にブランコの間中、ものすごく大きな口を開けて笑ってました。 結城 子どもたちがとことん楽しんでる姿を見てると、幸せな気分になりますね。 井手 本当に。11月のガケ遊びの後、「先生、こんなにラッキーな日にしてくれて、ありがとう」「こんなに楽しかったの、はじめて!」と言われてしまいました。 結城 毎日、楽しくて意味のある学習をしているのに(笑) 井手 どんなに楽しい経験でも、おぜん立てされたことは本物じゃないのかもしれない。自分から、何かに向かっていく経験は心深くに残りますね。   <森遊び:大木のシーソー>   ■言いたいことがいっぱいある生活が、ことばと感性を育てる 結城 うんと楽しい経験をすると、子どもたちは「聞いて、聞いて」と言いますよね。 井手 「言いたいことがいっぱいある生活」が大切なんだ。それと一緒に、「ことばの力」も育ってる。誰かに「ねえ、すごいことがあったんだ」と話したくなるし、日記も書きたくなる。 結城 そんな経験を重ねていると、子どもたちの感性は豊かに育ちますよね。心をいっぱい動かすこと―きれいだな、ふしぎだな、おもしろいな、こわいなあなど―は、今育てなくては!この間、高学年の子どもたちと森あそびをしてみたら、もう体も心も固まってきて、楽しむのに時間がかかりました。 井手 いくつになっても、感性を育てることは大切だけど、幼児さんから低学年は、ベストなタイミングですね。 結城 ダイナミックな活動もいいですけど、「今日は満月だね」「霜柱、ふんじゃった」「このりんご、おいしいね」など、ささやかなことでも、お家の方もお子さんと一緒に喜ぶことがたくさんあると、お子さんの心が育ちますね。   ■ぬくもりのある遊びが、自信と人とつながる力に 井手 森ではできないことがあっても当然。でも、教室ではどうですか。 結城 やはり、まちがうことがこわくて固まってしまう人、失敗する自分が許せない人がいます。「教室はまちがうところ」といつも言っています。 井手 それをほぐすのに、時間がかかりますね。 結城 「わからない」と言えなくて、じっと座っている子もいます。まちがえても、わからなくても、そこから学習は始まるのに。 井手 いつもカンペキな自分でないとダメ、と思っているのかな。ママにほめてもらいたいし。 結城 できない私も、わがままな私もふくめて、ママは私を大好きなんですけど、子どもは心配なのかもしれません。 井手 小さいときにお家の方とぬくもりのある遊びをしている子は、学校でも自分らしくのびのびしているように思います結城 子どもたちは、お家の方がいつも笑顔でいてほしい。おひざに乗せて手遊びしたり、お風呂で歌を歌ったり、たっぷりふれ合えるといいですね。 井手 あと5年もすれば、子どもは親よりも友だちと一緒にいるようになりますから。今のうちです。 結城 お家の方と心ゆくまでふれ合ってきた子は、友だちとつながることも自然にできますね。     ■豊かな体験は、自分で学ぶ力に 井手 私たちは普段の授業や休み時間など、いろいろな時に子どもを見ていますが、子どもが夢中になっているときは、頭がクルクルと働いているのがよく分かります。 結城 先ほどのシーソーはいい例ですね。 井手 そうですね。シーソーのバランスを取るために、丸太を動かしたり、乗る場所や人数を変えてみたり、みんなで工夫するんです。試行錯誤するのには、体力が必要ですが、それを支えるのが「自分の力でやり遂げたい」という気持ちではないでしょうか。 結城 やってみる中で、たくさん失敗もしますが、失敗した悔しさや、発想を変える面白さ、考える喜びを味わうところに価値がありますよね。そして、目標を達成すると、「自分の力でやり遂げた」という大きな喜びを経験することができます。それが、次のチャレンジする力になると思います。 井手 このような豊かな体験が、通常の授業でも、自分で考えて学ぶ力につながっていきますね。 結城 そうですね。面積を求める公式を覚えるのは簡単です。でも、実際に円をはさみで切ってみて、自分たちで円の面積の公式を考え出すことで、その学びは子どもたちの成長につながりますね。 井手 ものごとの本質に迫り、学ぶ楽しさをとことん味わった子どもは、中高生になっても、大人になっても、それぞれの場で生きることを楽しむでしょうね。失敗や苦労も自分の糧にして。 結城 森遊びは、学ぶ力、生きる力をつけてくれるんですね。これからもたくましくしなやかに生きる子どもを、育てていきましょう。     対談記事にある「森遊び」の要素を取り入れたポイントラリー『けいめいの森のたからさがし!』を3/29(土)に実施いたします。 興味のある方は、ぜひお越しください。お待ちしています。 詳細は<こちら>から。